社長へ、後継者の可能性を狭めないで!

親鳥から餌を与えられていたひな鳥も巣立ちをする時が来る。巣から初めて飛び立つときは、まだ羽の動きも覚束なく、上手く飛べない。親鳥はその様子を心配そうに見ている。
巣から飛びだったひな鳥は、それから親鳥といつまで一緒に過ごすのだろうか。いづれは親どりの元から離れて、独立をしていくのだろうか。
親鳥がいない外の世界には危険もある。ひな鳥も成長していくにつれて、危険からは自分で身を守らなければいけない。そこには、親鳥はもういない。むしろ、新たなひな鳥が生まれれば、今度は自分だけではなく、ひな鳥も守っていかなければいけない。
それから、巣から飛び立ったひな鳥には危険もある代わりに、可能性も大きくひろがる。広くて、大きな空で、自由に飛び回ることができる。危険と同時に大きな自由が手に入る。
ただ、それができるのは親鳥から離れて、飛び立ったから。もし、親鳥がいつまでもずっとひな鳥のそばを離れないでいたとすれば、ひな鳥は自由に飛び回れるだろうか。親鳥は心配でたまらず、先回りして危険を避けるために色々なことを言うかもしれない。そうなると、ひな鳥は危険を避けられるかもしれないが、自由もなくなる。
大きな空が広がっているのは違わないが、そこに目に見えないかごができ、そのなかでしか飛べない。
親鳥はひな鳥のことを思い、心配して、かごの外には行かないようにする。
私はこれまで多くの事業承継を見てきた。そのなかには、先代に強く反発をする後継者も多くいた。一方で、従順な後継者もいた。先代は親として子供のことを心配する。できるだけ危険にあわないように守ろうとする。そうすると、結局は親の世界のなかで事業を承継し、経営を続ける。
これは大空が広がっているのだが、目に見えないかごの中でいるひな鳥と同じ。親鳥や先代がそのようなかごをつくり、小さな世界をつくってしまった。
しかし、親どりも先代も経験したことがないような危険や危機に襲われることもある。そうなったら、かごは何の役にも立たない。そのときに、危険や危機を察知して、新しい家族や会社を守っていかなければいけない。そして、そのときはこれまで守ってくれた親鳥や先代は年老いて、守れる力はもうない。
親鳥も先代もいつまでも子供を守ることはできない。
ひな鳥や後継者の前には親鳥や先代が想像もできない広くて可能性に満ち溢れた世界がある。これまでに親鳥や先代が生きてきた世界とは違う。
にも関わらず、先代は同じことが起きると考えていないだろうか。そして、後継者を心配することが、後継者の可能性を狭めることになっていないだろうか。
「息子に期待しすぎでしょうか。」と私に相談をしてくる人がいるが、期待しすぎの反対で、もっと期待すべきであると思うことの方が多い。
後継者が20代だとすれば、あと30年は十分にある。仮に、30年間、毎年売上げを110%上げ続けていけば、いくらの売上げになるだろうか。一度、計算してみて欲しい。売上げ3億円だとすると、30年後には50億円を超える。1.2倍にすれば、なんと700億円を超える。
これだけの可能性があるのだが、先代の頭にはこれまで経営を続けてきた世界しかない。20年以上経営を続けてきて売上げ5億円だとすれば、20年で売上げ5億円の世界しかないのだ。その世界でこれから30年もの長い時間を考えるのか。
それがどれほど小さな世界で、また可能性を狭めることになるのか。
決して、それは子供を守っているのではない。子供の可能性を狭め、子供を勇気のない弱い人間にするだけである。
親鳥のように、巣立ったひな鳥のことは信じて、見守る。頼ってきたときだけ、必要なアドバイスをする。私も親になり、このことの難しさも分かるようになってきたが、余計なことは考えずに言わない。子供には旅をさせる。私もそうありたい。
子供には自らの可能性を信じて、自らの生きるビジョンを持って自由に羽ばたいて欲しい。それだけの力はあると信じて。

